岡山県で、長期インターンシップの求人サイトを運営する株式会社COMPUS。代表の藤田圭一郎さんへのインタビューでは、予想していなかった言葉をいくつも伺いました。
“「長期インターンの文化は、なくなるのが理想」”
“「就活は嫌いです。滅びればいいとさえ思っています」”
そう話す背景には、年齢や居住地かかわらず、挑戦したいと思うすべての人の可能性を信じる藤田さんの思いがありました。
COMPUSをはじめたきっかけや、藤田さんの学生時代の経験などを伺いながら、藤田さんが教育分野に携わっている理由に迫ります。
藤田圭一郎(ふじた けいいちろう)さん
岡山県岡山市出身。関西の大学を卒業後、会社勤務を経て2011年にUターン。家業である、有限会社藤田酒店に入社し店主を勤める傍ら、2015年には株式会社コンテンツクルー、2020年には株式会社COMPUSを設立。学生時代よりスタートアップに関わってきた経験から、岡山でもスタートアップのコミュニティを立ち上げる。現在では「長期インターン求人サイトCOMPUS」の運営に尽力し、多くのインターン生とかかわりながら長期インターンを地方に根付かせるために活動している。
COMPUSでは、長期インターンシップ(以下、長期インターン)の求人サイトを運営しています。はじめた理由は、学生と企業双方にとって、長期インターンを地方でおこなうことにメリットを感じているからです。
学生側を考えると、地方にいながら挑戦できる場が増えたらいいなと思っていました。というのも、COMPUS立ち上げ前から岡山でスタートアップを支援するような活動をおこなっていて、学生から「長期インターンをやりたい」と相談を受けることが多かったんです。「1年半くらい休学して、東京に行くといいよ」と話していましたが、「すべての学生が東京に行けるわけではない」とも思っていたのも事実でした。
それでも長期インターンを勧めていたのは、僕自身が「学生のときに長期インターンをしてよかった」と思っているから。なので「地方にいながらでも学生が挑戦できる場があったらいいな」と思ったのが、そもそもの起業したきっかけです。
と同時に、企業側の視点でも、長期インターンはメリットになると思っていました。僕は実家の酒屋も経営しているので、求人募集を出す側の人間でもあるんです。家族経営の小さな酒屋なので、採用力があまりないのが課題でした。
求人募集を出してもなかなか応募が来ないなか、長期インターンの枠組みがあると学生の成長にコミットする姿勢をアピールできるな、と。採用に課題を抱えている地方の企業にとって、新しい採用の道になると思いましたね。
地方の学生側と企業側、両方の経験があるからこそ、長期インターン軸に事業をおこなっているのでしょうね。
ベンチャーで働くイメージを漠然と持っていて、大学生のときに起業家育成プログラムに参加しました。そこで登壇していた社長に、アルバイトさせてほしいと直談判したのがきっかけです。
社会人としてのスキルアップを求めて長期インターンを始めましたが、身についたのはスキル以上にマインドでした。なにがあってもへこたれない根性というか、挑戦し続けていく気持ちの強さというか……。僕の起業家としてのマインドは、長期インターンをしながらつくられていきました。
また、“今の延長線上に社会人生活がある”と感じられたのは、よかったと思っています。学生時代はよく、「社会人になると忙しくて時間がなくなるから、やりたいことは学生のうちにやっておいたほうがいい」と言われていました。
でも、本当は地続きじゃないですか、学生と社会人って。
“学生だから”“社会人だから”と思わずに、長い目で見て成長していけばいいという価値観に出会えたんです。
いや……とくに中学生時代は、どうしようもなかったんですよ。当時は勉強もほとんどしていませんでした。
高校に行かないような人の集まりに属していて、夜10時になったら家を出て、公園にたむろする生活をくり返していまして。ガラが悪かったですね(笑)
彼らとは、今でも仲いいんですよ。一緒にフットサルをやっていますし。
勉強していなかった生活が一変したきっかけがあって、それは彼女ができたからでした。当時付き合っていた彼女はがんばりやさんで、勉強もしっかりやっていたんです。それから、僕もがんばって勉強するようになりました。学年で最下位だったテストの順位も、1年経ったら上から数えたほうが早くなったほど。かなり影響を受けていましたね。
今思えば、出会うコミュニティによって人は変わると思った、ひとつのきっかけだった気がします。もちろん、中学生の頃のコミュニティは小さいですが、誰と関わるかで自分の行動が大きく変わるのは、年齢関係ないです。
もちろん。でも、うちの場合はアルバイトの学生を長期インターン生と呼ぶようになりました。募集をかけてスタートしたわけではないんです。
というのも、すでにアルバイトの学生とアプリを開発していました。彼らにはスキルアップの場として活用してもらっていたので、「これって長期インターンだよな?」と思ったんです。給与や仕事内容は何も変えずに、呼び方だけいきなり「長期インターン生」としました。
学生を受け入れるのを不安に思っている企業はまだ多いですが、やる気や知識を社会人以上に持っている学生はたくさんいます。はじめての長期インターン生は、僕から見たら立派なエンジニアでしたし。僕が教えてもらうことばかりです。
「学生だから」というラベルは、僕にはまったくない。彼らはビジネスパートナーです。年齢は、記号でしかないですから。
僕はラベルを持っていなくても、まだ世の中的には学生がラベリングされやすいと思っていて。
ラベリングされると、学生が挑戦できる場は限られてしまうかもしれない。損です。学生にとっては非常に。だから本音を言うと、「長期インターン」とあえて言わなくても、学生が当たり前に挑戦できるような世の中になってほしいと思っています。長期インターンの文化は、なくなるのが理想です。
ええ。今は、長期インターンをなくすための過程にいるのではないでしょうか。
COMPUSでも導入事例が増えてきています。「岡山から出られないから、夢を諦めないといけない」とならないために、一歩ずつ成長している状況です。
そもそも、教育格差や情報格差があるのが嫌なんですよ。僕のように家業やなんらかの理由があって、地方から出られない人はたくさんいます。そういう人の力になりたいと思っていたら、いつのまにか教育分野に足を踏みいれていました。
やるからには豊かになってほしいですかね。自分の人生を、自分でハンドリングしてほしいと思います。すべてにおいて自分事化して、主体性を持って取り組むのが大事。
そういう意味では、主体性を見失う就活は嫌いです。滅びればいいとさえ思っています。
自分が成長するためには、長期的な視点で投資していくのがいいと思っているからです。
就活って、ものすごく短期的ですよね。目先の“内定”だけを考えてしまい、自分が長い目で見てどうなりたいのかを一瞬で見失わせてしまう。「就活は早く終えた方がいい」という同調圧力もあり、それに飲みこまれた長期インターン生を多く見てきました。
きっと、大学1年生の頃に描いていた10年後の自分とはまったく違う結論に至ったまま、就活を終えている人は多いはずです。
もっと言うと、内定が決まらないことで思い詰めてしまい、自殺してしまう人もいますよね。実際に人を殺してしまうんです、就活は。
いろいろな価値観を持つ人が集まるような、学校や家とは違うコミュニティに属するのはいいと思います。就活をしなくても楽しく生きている大人の話を聞けると、気持ちが楽になるでしょうし。世の中にはいろいろな考え方があって、自由に将来を思い描いていいと思える場は必要です。
複数の価値観に出会う手段のひとつとして、長期インターンがあると思っています。複数の大人と出会えて、しかも距離が近いですし。
もう、声を出し続けるしかないですよね。今回のようにインタビューを受けるとか、SNSで発信するとか、自分が興味のあることを友人に話してみるとか。
声を上げると、だいたい手伝ってくれますよ。お金をかけずに協力者を増やせる方法だと思っています。
21年6月、高校生・大学生向けに「Garage」という取り組みを始めたのですが、これは行政が一緒に動いてくれていますからね。学校方面に直接アプローチしてくれているんです。実際に接点がなかった学生20名ほどと出会えているので、まず声を上げて助けを求めるのは意味があると思います。
やはり、長い目で見て付き合いたいですね。
例えば、応援していた人が1回失敗したとします。世間的には、「あいつはだめなやつだった」などとネガティブに言われがちだと思うんです。
僕の経験上、本当に挑戦したい人はへこんでもまた戻ってきますから。チャレンジしている人はずっと応援したいし、長期的に向き合う姿勢を大事にしたいと思います。
COMPUSは、学生側・企業側の両方の視点を持っている藤田さんだからこそ、生まれたサービスでした。根底にあったのは、「地方の教育格差や情報格差をなくしたい」という藤田さんの思い。
地方出身でもある筆者は、「地方では挑戦できないから東京に行く」と話す友人を多く見てきました。「本当にそうなのだろうか」とモヤモヤしていた気持ちが、藤田さんへのインタビューで少し晴れた気がします。
地方にいるからといって、
その夢、
諦めないといけないですか?
年齢や居住地かかわらず、ひとりひとりが夢を叶えられる世の中を目指して。私も考え続けたいと思います。
地方には、可能性が溢れています。教育にできることはなんだろうか。問いは続きます。