学校にいかないと幸せになれないの?――新しい居場所「フリースクールもえぎ」代表 中藤寛人さんインタビュー
みなさんは、「フリースクール」にどのようなイメージをお持ちですか?
不登校児と呼ばれる子供が年々増えている中で、注目が集まる「フリースクール」。その役割とはなんなのでしょう。
ひとくちに「フリースクール」と言っても、進学支援がメインの大規模なところから、地域に根ざしたところまであり方はさまざま。「学校に代わる居場所」を求める声が大きくなるにつれ、その数を増やしてきました。
そんな中、「誰があなたを非難しようと、私たちは『あなたのそのまま』を⼤切にしたい」と謳う「フリースクールもえぎ」が岡山市にオープン。
「あなたのそのままを大切にする」とはどういうことなのか、代表の中藤寛人(なかとうひろと)さんにインタビューしました。
中藤寛人(なかとうひろと)
岡山県倉敷市出身。岡山大学経済学部在学中。
2021年9月「フリースクールもえぎ」設立、代表。
高校時代に自身が不登校を経験する。自身が不登校を乗り越えた後に不登校となった妹と、母親の関係性を繋いだ経験をもとに、2018年に「不登校」で悩む家族の方々に寄り添う活動を個人で始める。2019年の秋には、親子のコミュニケーションをサポートする民間資格「親業訓練インストラクター」の資格取得を目指したクラウドファンディングを達成。「家族の中で助けての声が届き合う世界」を目指し、現在はフリースクールの代表として活動している。
twitter: @hiikun_family
はい。もえぎは、岡山駅近くにあるフリースクールです。毎日通ってくださっても、週に数日、数時間、遊びに来るような感覚で来てくださっても大丈夫。平日の朝9時から夕方5時の間、いつでも好きな時に来ていただける場所です。勉強スペースはもちろん、漫画や本、ゲームもおいていますよ!
小学校3年生から高校生までの方が対象ですが、今は中高生に多く利用していただいています。
時期や要因は違うのですが、僕も妹も学校に行けない時期があって。それと向き合った経験がフリースクール立ち上げの大きなきっかけです。
僕は高校生のころ、学校に行ったり行かなかったりを繰り返していた時期がありました。原因は、父親を含む親戚一同が働いていた祖父の会社の廃業とそれに伴うトラブルです。
家の雰囲気があまり良くなかったところに、職を失った親戚から嫌がらせを受けて、もっと家庭がぎすぎすするようになりました。
そうですね。
僕は家庭の雰囲気に影響されて学校に行けなくなりました。妹は逆で、妹が学校に行けないことで家族の雰囲気、特に母親と妹の関係を悪化させてしまいました。このふたりの間を取り持ちたいと思って試行錯誤した経験が、もえぎの原点だと思います。
僕は学校に行ったり行かなかったりしていた間もそれなりに勉強はしていたのですが、妹は勉強が好きでなくて。「学校に行く=勉強している」と思っている母にしてみれば、家でまったく勉強しない妹が心配だったんでしょうね。無理やり引きずって学校に行かせようとして大喧嘩になる、なんてことがよくありました。
この様子を見ていて、僕は家族を大事にしたい、母と妹の間を取り持って気持ちを繋ぎたい、と思うようになりました。そのためには、親と子、両方の視点に立って寄り添うことが大事なんですよね。
そこで出会ったのが、親としての役割を効果的に果たすための訓練をする「親業」というコミュニケーションプログラムです。
「親業」のスタートは、親の仮面を外して子供と接し、人と人として向き合うこと。その本質は、欲求や感情を自分を主語にした形で伝えたり、行動や言動に隠された感情を汲み取ったりするところにあります。
例えば、母が妹を無理やり引きずって学校に行かせようとしていたのは、妹が嫌いだったからじゃない。心配という割と単純な感情が爆発して、そういう行動に結びついたんです。
でも、妹に母の気持ちは伝わっていなかった。親と子、双方が互いの気持ちを理解するのって難しい。
もえぎは、ただ通ってもらうだけじゃなくて、「学校にいけない」にまつわる親子や家族の関係にも寄り添って行きたいと思っています。
塾でしたね。祖父の会社が廃業したタイミングだったのでお金があまりなかったんですが、それでも塾の先生はとても僕によくしてくれて。学校に行っていないという話をしても、特にそこに触れずに接してくださいました。
学校だと、とかく「不登校」「勉強ができない」「問題児」なんていろいろレッテルを貼られがち。目立たないように普通でいることが平和に過ごすコツだったりしますよね。でも塾だと、「ただ勉強がしたい僕」として受け入れてもらえるのがとても居心地がよかったんです。
これが、もえぎの「誰があなたを非難しようと、私たちは「あなたのそのまま」を⼤切にしたい」という在り方の原点かもしれません。
「ただ、その子であること」を受け入れる第三の居場所でありたいです。こうやって、気持ちを置いてきぼりにせずに少しずつ進んでいくことを大切にしようと思えたのは、塾での経験が大きかったです。
これは、もえぎでの一日のスケジュールにも反映させています。
朝9時に来て、まず目標を決めます。漫画を読みたいとか寝たいとか、散歩したいとかでも大丈夫。もちろん、進学のために勉強をする人もいます。大事なのは、自分で決めて頑張ること。午前中いっぱいは、自分の目標に向かって自分のペースで取り組んでもらいます。そして、午後は自由時間。朝の続きをやってもいいし、遊んでもいい。
こんな風に時間を過ごしながら、やりたいことを一緒に見つけられたらな、と。
もえぎは、萌え出す木という意味です。ホームページでも説明していますが、まず最初に種があって、それがだんだん成長していく、そんなイメージで名づけました。
もえぎでは、種の部分を大切にしたいと思っています。僕は、種って「こんな自分はだめだ」というマイナスの感情であることが多いと思っています。でも、「こんな自分はだめだ」と思うということは、心のどこかで「なりたい自分」があるから。
種の時、芽が出たとき、若木の時、大きな木になった時、それぞれの段階で異なるであろうしたいことを大切にしながら、一緒に木を成長させていきたいと思っています。
そうですね。今は、オンラインでの習い事に力を入れています。例えばゲームが好きな子だったら、プログラミングと英語を使ってゲームを作ってみたり。
オンラインがメインなのは、コロナのせいというよりも、生徒さんのハードルが下がるから。家からあまり出ない子がいきなりもえぎに来るのはなかなか難しい。まずは家から外の世界と繋がってみる。そして、いつか「外に出たい」「遊びに行きたい」という気持ちが湧いたときに、選択肢のひとつとしてもえぎがあるといいなと思っています。
学校のように、半強制的に毎日通う場所ではなく、あくまでふらっと立ち寄れるひとつの居場所としてとらえてもらえるよう、頑張っています。
今はまだまだ「不登校は普通から外れた人」というレッテルを貼られがちで、学校に行けないことに痛みや罪悪感を感じる人は大勢います。でも、時代が進むと状況はよくなっていくのではと考えています。
例えば、数十年前は今以上に男女格差がすごかった。おそらく、女性は女性であることにつらさを感じている人がたくさんいたんだと思うんです。でも、だんだん「女性差別」の痛みが社会で共有されて、男女平等に向かう流れができてきた。
不登校の痛みも、だんだんと社会で共有されつつあります。学校に行かない、という選択肢が前ほど珍しいことではなくなってきている。だからきっと、僕がもえぎで活動しなくても、数十年たてば不登校なんて言葉は過去のものになるでしょう。ですが今、苦しんでいる人がいるのも事実で、僕はその人たちの痛み寄り添っていきたいですね。
人はたいてい、自分が傷つかないものの見方をしています。「自分はどうせひとりなんだから、孤独に生きていくんだ」と思っている人は、心のどこかで「受け入れられたい、愛されたい」と願っている。でも、願いに気がついちゃうと心が苦しくなるから、無意識にその願いに目を向けないようにしているんですね。
ですが、心から信頼のできる人と出会えれば、この痛みを少しずつ受け入れていくこともできると思うんです。だから、いろんな人たちと出会える場所があって子供がそれを自分で選べるようになればいい。もえぎは、そのための選択肢のひとつでありたいです。
「あなたのそのままを大切にする」ことで、「不登校児のための学校の代替品」ではなく、「第三の居場所」としてのフリースクールを目指すもえぎ。
寛人さん自身の経験が色濃く反映された、「目の前のひとりひとりに向き合って、痛みに寄り添っていく」姿勢は、生徒さんだけでなくご家族の方にとっても心強いことでしょう。
「幸せ」の第一歩は、みんなと同じように生きることではなく、今の自分を肯定できる環境に身を置くことなのかもしれません。
もしあなたやあなたの周りの人が「家にも学校にも居場所がない」と悩んでいるのなら、もえぎにふらっと遊びにいってみてはいかがでしょうか。
▼フリースクールもえぎ
住所 : 岡山県岡山市北区駅元町25-14
時間:平日 9:00 – 17:00
代表担当者 : 中藤寛人
運営会社 : 株式会社コノテ
公式ホームページ:https://moegi.space/
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